遺伝性乳がんの検査と治療は?乳房の予防切除は必要か?
こんにちは。加藤隆佑です。
乳がんの治療薬の1つにリムパーサという薬があります。
BRCA遺伝子変異陽性の乳がん患者さんに、用いることができます。
したがって、乳がんの治療を受ける過程において、BRCA遺伝子の検査を受ける必要がでてくることになります。
リムパーサの治療を受けることができるかを調べるためです。
BRCA遺伝子の検査は、遺伝性乳がんの検査ともいえます。
つまり、乳がんの治療中に、遺伝性乳がんかどうかが、判明してしまうケースが、それ相応の割合で出現することになります。
したがって、事前に遺伝性乳がんのことを詳しく知っておいた方が良いと考えます。
目次
遺伝性乳がんの割合は?
乳がんと診断された人の10%が、遺伝性乳がんであると言われています。
仮に遺伝子検査を受けなくても、家系内で、以下のどれかに該当する方は、遺伝性の乳がんの可能性が出ます。
・40歳未満で乳がんを発症した人がいる
・卵巣がんになった人がいる
・乳がんを2個以上発症したことがある
・男性で乳がんになった人がいる
・家族の中で乳がんになった人が3人以上いる
・トリプルネガティブ乳がんと言われた人がいる
・家族の中にBRCA変異の遺伝子があると言われた人がいる
遺伝子検査を受けて、BRCA1もしくはBRCA2という生殖細胞系の遺伝子に変異があれば、遺伝性乳がんということになります。
正式には、遺伝性乳がん遺伝性卵巣がん症候群と呼ばれます。
遺伝性乳がんと判明したときに、考えるべきこと
血縁者に伝えるべきかどうか?
遺伝性乳がんと診断された方の血縁者に、その旨を伝えるかどうかを考えないといけません。
約1/2の確率で、血縁者に遺伝性乳がんの遺伝子は、遺伝するからです。
そして、その遺伝子を持つことにより以下のような確率で、がんを発症することになるからです。
- BRCA1変異:乳がん72%
- BRCA2変異:乳がん69%
もし、血縁者の方が、遺伝しているかをはっきりさせたいと言われれば、遺伝子検査を受けることになります。
採血2ccとるだけ判明します。
そして知って欲しいこととして、以下のことが挙げられます。
「乳がんになっていない方で、遺伝性乳がんの遺伝子を持っている場合」は、日常生活における注意点が発生する。
遺伝性乳がんの遺伝子を持っている方の注意点
30歳未満の方ならば、マンモグラフィーを受けることは、推奨されません。
逆に、マンモグラフィーにより乳がんの発症リスクを数倍あげることになるとされています。
胸のレントゲン写真を取るだけでも、乳がんの発症リスクをあげると言われています。
ちなみに、30歳以上の場合は、マンモグラフィーを受けても、乳がんの発症リスクをあげないとされています。
BRCA遺伝子の変異をもつ場合は、年に1回の造影MRIが推奨されています。
遺伝性乳がんの遺伝子を持っている方が、乳がんになったら、治療方針も変わる。
乳がんと診断された方が、遺伝性の乳がんの遺伝子を持っていたら、
乳房温存手術は、あまり推奨されません。
どちらかというと、乳房の全摘が推奨されます。
乳房を温存してしまうと、乳がんの再発率が高くなるからです。
つまり、どのような遺伝子を持つかを知ることが、がんの予防や治療の方針に影響を与えることになります。
乳房の予防的な切除術は推奨されるか?
ガイドラインには、以下のような記載があります。
「細心の注意のもと両側の乳房切除術を行うことを考慮する。」
その理由としてBRCAに異常がある女性は70歳までに約50%の確率で乳がんを発症することが判明しているからです。
予防切除を受けることにより乳がんの発症リスクを2%まで下げることができます。
また、乳がんの発症を減らすために、運動をすることも有用とされています。
逆に体重増加は、乳がん発症のリスクを上げることも判明しています。
ところで、私は、がんの方の食事療法や漢方治療に関わっています。
そして、食事療法だけで、がんが縮小する方もいます。
そのようことを考慮すると、ふだんの食事内容を気をつけることも、乳がんの発症を抑えることにつながると言えるでしょう。
BRCA遺伝子に変異があると、乳がん以外のがんになる可能性が増える。
BRCA変異があると、以下のがんも増えると言われています。
膵がん
男性で2.1%、女性で1.4%の確率で膵がんになるとされています。
つまり普通の方に比べて2.4倍確率が高くなります。
男性乳がん
男性乳がん自体は非常に稀です。しかし、この遺伝子変異を持つことにより、発症リスクを約100倍に上げるとされています。
BRCA遺伝子を持っていると、一生のうちで、男性乳がんになる確率は6%程度とされています。
前立腺がん
BRCA遺伝子をもっていると、前立腺がんの発症リスクが、2〜7倍になるとされています。
卵巣がん
BRCA遺伝子の変異を持っていると70歳までに卵巣癌を発症する確率は以下のとおりです。
- BRCA1遺伝子に変異がある場合:40%
- BRCA2遺伝子に変異がある場合:18%
そして、BRCA1遺伝子に変異がある場合は、非常に高い確率で卵巣がんを発症します。
したがって、35から40歳の間に、卵管卵巣摘出術を受けることが、推奨されています。
家計内に35歳よりも若い方で卵巣がんの方がいれば、その年齢を卵管卵巣摘出術の施行時期として、最適ということになります。
ちなみに、BRCA2遺伝子に変異がある場合は、卵管卵巣摘出術を省略してもよいという考えもあります。
ただし、卵巣と卵管を切除しても、腹膜という組織は残ります。そして腹膜にがんができてしまう可能性はあります。腹膜がんは、卵巣がんと兄弟的ながんとされています。
卵管卵巣摘出術に腹膜がんが発症するリスクは、0.5~4%程度とされています。
卵管卵巣摘出術後の注意点
女性ホルモンがでなくなるので、骨粗しょう症や心血管への負担を与えることになります。
定期的に骨密度を測定したりすることが必須となります。
そして、心血管系疾患の危険因子対策として、生活習慣を気をつけてもらうことになります。
また、女性ホルモンが出なくなることによって、更年期障害のような症状がでます。
その症状を改善するために、漢方が有効です。
遺伝性の乳がんと判明したら、遺伝カウンセリングを受ける必要がある。
遺伝性のがんと判明したら、様々な問題に直面します。
- 血縁者のがんの可能性、
- 血縁者が、がんの遺伝子を持つことが判明したときの対応の仕方
- ご自身のがんとの向き合い方
したがって、遺伝カウンセリングを受けるべきです。
しかし、日本には遺伝カウンセリングを受けることができる環境が全く整っていません。その一方で、遺伝性のがんに関する検査だけは、広がる一方です。
私は、このことを、とても危惧しています。
さて、私なりに遺伝子の乳がんに関する解決策を持っています。
その1つが、がんに対する正確な知識を持つことでしょう。