すい臓がんの治療の流れ|症状と診断ならびに治療を医師が解説
こんにちは。加藤隆佑です。がん治療の専門医として、総合病院で勤務しています。
さて、私の17年間の膵臓がん治療の経験を踏まえて、膵臓がんの治療の流れと、膵臓がんを克服するためのコツを書いていきます。
目次
膵臓がんの症状
膵臓は、胃の後ろの深部にあります。がんが発生しても症状が出にくく、早期の発見は非常に難しいです。
症状がでるとしたら、腹痛、食欲不振、黄疸(体が黄色くなること)、腰や背中の痛みです。糖尿病を発症することもあります。
しかし、これらの症状は、すい臓がん以外の理由でも起こることがあります。従って、そのような症状のときは、病院で検査を受ける必要があります。
さて、膵臓がんの診断がついたときに、最も大切なことは、症状をとることです。
痛みがあるときは、痛み止めを飲む事になります。なかなかとれない痛みであるならば、モルヒネといった医療用麻薬を用いることに、なります。
腹腔神経叢ブロックという治療で、痛みが劇的によくなることもあります。
痛みをとることを中途半端にして、治療を受けるべきでは、ありません。
痛みがある結果、食事量が減ったり、睡眠不足になって、体力が落ちる事もあります。体力が落ちると、病院の治療に耐えられなくなる事も、珍しくありません。
症状をとること、そして、体調を整えることを、第一目標にしましょう。
その上で、病院の治療を受けましょう。膵臓がんの治療では、その部分が、肝要になります。
さて、すい臓がんは、ステージによって治療方針が異なります。
そこで、次の項目では、すい臓がんのステージの決め方について説明いたします。
膵臓がんの診断と、ステージの決め方
超音波検査、CT、MRI、PETなどを行います。
これだけの検査で、大半のケースで、膵がんという診断ならびに、膵がんの広がりが、分かります。
実は、典型的な膵がんであれば、画像診断(CT並びに超音波検査)だけで、診断ができるのです。
しかし、念のために、内視鏡を用いて細胞を採取する検査を行った上で、細胞レベルでも、がんがあることを確認した上で、治療に踏み切るケースは、多いです。
うまく細胞が採取されずに、がん細胞の存在が、証明されないこともあります。そのような場合は、画像所見で、典型的な膵がんの所見ならば、治療に踏み切ることになります。
もし、治療方針として、手術を視野にいれている場合は、PETの検査は、受けるべきです。
CTやMRIではステージ4の診断にならなくても、PETの検査をしたら、「実はステージ4で、手術の適応がない」と判明することがあるからです。
さて、ステージは、CT、MRI、PETより決定します。ステージの詳細は以下の通りです。
・膵がんステージ1
膵がんの大きさが、2センチ以下
・膵がんステージ2
膵がんの大きさが、4センチ以下
・膵がんステージ3
膵がんが、腹腔動脈、上腸間膜動脈、もしくは総肝動脈へ及ぶ。
腸や肝臓を栄養する血管に、膵臓がんが及ぶと、ステージ3になります。大きさだけでいえば、ステージ1に分類される15ミリという非常に小さながんが、腹腔動脈に及べば、ステージ3になるということです。
・膵がんステージ4
肺、肝臓、腹膜といった臓器に、転移がある。
すい臓がんのステージに応じた治療法
すい臓がんステージ1、ステージ2の治療
手術で、膵臓がんを取り除きます。
その後は、抗がん剤治療を短期間受けることにより、再発率をさらに下げます。
用いる抗がん剤として、TS-1という飲み薬の抗がん剤になります。
ステージ1であっても、再発の危険度は、非常に高く、抗がん剤治療を何も治療を受けなければ、8割の方は、再発します。
一方で、再発を抑えるために、TS-1という抗がん剤を1年飲むことが大切です。
そのような治療により、再発率は、数%下がります。
5年間、無再発でいられる割合を、約35%まで上げることができるのです。
そうはいっても、5年生存率が、十分に高いと言える数値ではありません。
また、手術で弱った体に追い打ちをかけるように、再発するケースも、珍しくありません。そのようなときは、打つ手がありません。体が弱っていて、追加の治療を十分にできないからです。
さて、最近になり、ステージ1やステージ2の膵がんで、手術で切除できると予測されても、「手術前に、放射線治療と抗がん剤治療(もしくは抗がん剤治療だけ)」で、がんを縮小させてから、手術に踏み切るという流れが、台頭しています。
私も、そのような治療法を提案することが、多くなりました。
そうすることにより、「手術で弱った体に追い打ちをかけるように、再発するケース」を減らすことができるからです。
手術でとれる状態なのに、先に抗がん剤治療をして、手遅れにならないか?
ステージ1やステージ2の膵がんで、手術で切除できると予測されても、「手術前に、放射線治療と抗がん剤治療(もしくは抗がん剤治療だけ)」を行うことに、不安を感じる患者さんはいます。
手術でとれるものは、早く切除してほしい。。。
このような気持ちはよくわかります。
しかし、「手術前に、放射線治療と抗がん剤治療(もしくは抗がん剤治療だけ)」をした方が、膵臓がんをとりきれる可能性が、より高くなることは、判明しています。
さらに、手術後の再発率も下がるのです。
このことは、2019年1月に、Prep-02/JSAP-05 という臨床試験の結果として、アメリカの学会で発表されています。
抗がん剤以外にも、膵がんの再発率を減らす方法はある。
漢方や、薬膳的な食事といった、東洋医学的なことを、加えましょう。
再発する確率を、さらに、0に近づけることができます
この段階で、漢方や、薬膳的な食事を取り入れることは、非常に重要です。
例えば、以下のような医学的なデータがあります。
—–
877症例の胃がんの手術後の生存率と食生活の関連を検討した愛知がんセンターからの報告。
豆腐を週に3回以上食べていると、再発などによるがん死の危険率が0.65に減り、生野菜を週3回以上摂取している場合の危険率は0.74になる。
—–
上のデータは、「胃がんにおいて、食事内容と治療成績に関連がある」というものです。
これは胃がんにおけるお話ですが、膵臓がんでも同じでしょう。
膵臓がんを抑えることと、食事内容には、強い関係があることを、知っておいてほしいです。
また、漢方は、しっかりと知識のある人に助言を求めると良いです。
それ以外の注意点として、膵臓の切除のために、思ったように食事が取れなくなることが、あります。
膵臓の手術は、他のがんに比べると、体に、負担がかかるのです。
そこで、食事の食べ方を工夫したり、薬膳的な食事を取り入れると良いです。
つまり、以下の3つのことをバランス良く、活用することが大切です。
- 適切な西洋医療
- 適切な食事内容
- 適切な東洋医学(漢方)
膵がんに負けないために、知って欲しいことは、こちらでも説明しています。
すい臓がんステージ3の治療
腸や肝臓を栄養する血管に、膵臓がんが及ぶと、ステージ3になります。
そのような血管に、「少し接する」程度の膵がんであれば、手術で切除することはできます。しかし、手術をしても、再発率が高いです。
そこで、手術の前に、「抗がん剤+放射線治療(もしくは抗がん剤治療単独)」による治療で、がんの縮小を図った上で、手術をするのが、主流になってきています。
また、腸や肝臓を栄養する血管に、「深く食い込んでいる」場合は、手術で切除することはできません。
その場合は、「抗がん剤+放射線治療(もしくは抗がん剤単独)」による治療で、縮小を図ります。
そして、手術ができるくらい縮小した場合には、手術を検討します。
先ほど、放射線治療と書きましたが、もし経済的な余裕があるならば、重粒子線治療を、検討してもよいでしょう。
重粒子線治療の方が、よりよい治療結果が期待できるケースがあることを、忘れてはいけません。
ここで、1つ特殊な手術法をご紹介いたします。
腹腔動脈合併尾側膵切除術(DP-CAR)です。
「腸や肝臓を栄養する血管の1つに、腹腔動脈というのがあり、ここに食い込んでいると手術ができない」というお話を、先ほどしました。
しかし、腹腔動脈に深く食い込んでいる一部のケースにおいては、DP-CARにより、がんを、安全に切除することができるのです。
ただし、切除したとしても、術後に、再発率が高いことは、避けられません。そこで、手術後に、抗がん剤治療を受けるかが、必要になります。
ここまでのことで、大切なことを、まとめます。
膵臓がんは、手術単独では、なかなか完治にもってこれません。抗がん剤治療を併用することが、必須です。
だからこそ、手術を受けたあとに、抗がん剤治療を受けられるだけの体力を残すことも、大切です。
病院で手術を受けた時には、リハビリをがんばって受けて、体力をつけましょう。
膵臓がんに対する重粒子線治療の効果
粒子線治療とは、先進医療になり、保険診療にはなりません。そして費用として300万円前後かかります。
炭素線治療、陽子線治療はすべて、粒子線治療に分類されるものです。
そして、これまでは、小腸や十二指腸と数mm程度しか距離が、離れていないときには、粒子線治療を行うことができません。
数ミリしか離れていないと、重粒子線により、腸に穴があいてしまうからです。
しかし、2019年12月より、正常組織に重粒子線が当たらないようにすることが、できるようになりました。
スペーサというものを、腹部の中に埋め込む治療法が、認可されたからです。
その結果、「膵臓がんが、小腸や十二指腸と数mm程度しか距離がない」場合でも、重粒子線治療をできるようになります。
スペーサを埋め込みをした上での重粒子線治療が、広く普及してほしいと思います。
しかし、スペーサを用いても、重粒子線治療ができないときもあります。
そのような場合には、従来の放射線治療に、少し工夫を加えると、よりよい治療効果を期待できるようになります。
たとえば、「呼吸によって病変が動くことにも、対応できる照射」は、非常に効果的です。
そのようにすれば、膵臓がんに対して、より高い線量を照射することができるようになります。その結果、がんを制御する確率が高くすることができます。
ハイパーサーミアは高圧酸素療法を併用することも、非常に効果的です。
つまり、放射線治療というのは、実は、照射を計画してくださる医師の腕や、照射の機械によって、治療成績が異なることになります。
さて、この説明から、「粒子線治療は、通常の放射線治療と同じくらいである」と思われたかもしれませんが、そうではありません。
粒子線治療だからこそ、非常に良い治療成績に導くことができるケースがあるのも、事実です。
結論として、経済的に余裕があり、粒子線治療を受けることができる膵臓がんの状態ならば、粒子線治療を受けた方が良いです。
膵臓がんステージ4(もしくは、再発)の治療
肝臓、肺、腹膜、複数のリンパ節に、がん細胞がある状態のことです。この状態は、がん細胞が、体に広く散らばっていると予想されます。
手術による治療では、がんをすべて取り除けないために、抗がん剤治療が中心となります。
抗がん剤であれば、体の血流にのって、体中にひろがったがん細胞に、がんを倒す薬の成分を、行き渡らせることができるからです。
その治療により、体に広く散らばっているがんが、制御できたと予想される場合は、根治を目指した手術が、なされることも、あります。
膵臓がんは、完治を望める病気になりました。
膵臓がんは、以前に比べると、克服できる病気になってきました。
一方で、さらに、生存率をあげたり、再発率をさげるために、病院の治療に加えて、取り入れるべきことも、あります。
病院で受ける治療は大切ですが、それだけでは、十分ではないのです。
余命宣告をされていたとしても、もっと長く生きることは、できます。
そして、膵臓がんに負けない体を作っていきましょう。そのために、知っておくことがあります。