がん治療中のせん妄の解決のために、家族が知っておくべきことを医師が解説
こんにちは。加藤隆佑です。
がんの治療中に、認知症のような症状が、急に出ることがあります。
しかし、それは、認知症ではありません。せん妄と言います。
そして、早期発見をして、対処をすれば、解決に向かうものです。
目次
がん治療中のせん妄とは?
せん妄になると、以下のような症状が出ることが多いです。
注意力の低下という症状
具体的には、以下のような症状です。
- 話題が、とりとめもなく、変わってしまう
- 周囲の物の整理ができない
昼と夜の感覚が鈍くなるという症状
- 寝る時間と、起きる時間が、不規則になる
- 昼間に眠り、夜は眠れない
一見すると、なんとなく、変だな?という程度の症状です。
しかし、このような症状が、せん妄の初期症状の可能性が高いです。
このような症状が出現したら、せん妄の可能性を考え、対処する必要があります。
主治医に相談すると良いでしょう。
ちなみに、「一見すると、なんとなく、変だな?という程度の症状」の段階から、せん妄に対する治療を開始すると、せん妄からの離脱が、より容易になります。
しかし、忙しい医療従事者は、初期のせん妄の症状を、見落としてしまうことが多いです。
さらに、せん妄に慣れた医療従事者でも、その患者さんに関する情報がないと、なかなか気づけません。
逆に、家族の「どうも普段と様子が違う」といった違和感が、せん妄の手掛かりに、なることが多いです。
家族が、初期のせん妄の症状に気づいてあげると、とても良いでしょう。
家族だからこそ、できることです。
ちなみに、以下のような症状も、せん妄の症状になります。
1、場所や時間の感覚が鈍くなる
・自分が今いる場所が、わかりにくい
・今日がいつか、わかりにくい
・昼夜の区別、時間が、わかりにくい
2、行動の変化
・落ち着きなく、何度もベッドから起き上がる
・どこかへ行こうとして、その行為を繰り返す
・点滴などの管を、無意識に抜いてしまう
3、幻覚が見える
・実際にはいない人が、見える
・実際にはない物が、見える
・部屋の中に虫が、いるように見える
4、話していることのつじつまが合わない
・過去のことを、現在のことのように話す
・現実とは違うことを、話す
以下のような症状も、せん妄です。
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がんで、入院中の80歳の男性
入院して4日くらいすると、夕方になると怒り出すようになる。
そのきっかけや理由は、はっきりせず。
皆、怒りへの対応に困る。
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夕方になると怒りっぽくなるのも、せん妄を疑う症状の1つです。
ちなみに、睡眠と覚醒のサイクルが、おかしくなるという症状は、ほぼ100%のせん妄の患者さんに認めます。
さて、夕方になると怒りっぽくなるという症状であれば、せん妄の典型的な症状であるために、医療従事者も、迅速に対応してくれることでしょう。
ちなみに、せん妄について、もう少し専門的な内容は、以下の通りです。
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せん妄は、何らかの原因で脳が機能不全を起こすこと。寝ぼけている状態とも言える。
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1日の中で、症状が、変化しやすい特徴があります。
そして、認知症やうつ病の症状と、間違われることもあります。
せん妄と認知症を区別するポイントは?
認知症の症状は一定で、時間の経過とともに病気は進行していきます。これに対して、せん妄の症状は1日のうちでも変化しやすく、多くの場合、治療によって回復します。
せん妄と、うつ病を区別するポイントは?
うつ病の人は、落ち込んだ状態から、急に元気になるようなことは、ありません。
せん妄は、症状に一貫性がありません。
一日中不安そうで落ち込んでいたと思うと、翌日は元気で意味不明のことを言って動きまわるというように、症状が変化することがあります。
どのような人が、せん妄になりやすい?
入院した患者さんの20から30%の方が、せん妄を合併すると言われています。
しかし、軽いせん妄は見落とされているとも言われています。
そして、せん妄のもう一つの大きな問題点は、夜間の転倒、転落事故に結びつくということです。
不安定な行動が、夜間の転倒、転落事故に結びつくのです。
軽い病気で入院しただけなのに、不穏になり、転倒して、大腿頚部骨折になり、寝たきりになってしまったという事例もあります。
そして、高齢者で、以下の要因を持つ人が、せん妄になりやすいです。
- 脱水
- 感染(肺炎、尿路感染症など)
- モルヒネ、睡眠導入剤といった薬剤を内服している
- お酒の量が多い方
- 以前にせん妄になったことがある方
せん妄の予防策とは?
せん妄の、誘引を取り除くことに、努めないといけません。
1、脱水の予防
近年では、空調が効いて、乾燥した環境で生活をします。その結果、入院して食事摂取をしていても、脱水になることはあります。
また、高齢になると、口渇を感じづらくなり、脱水になりやすくなります。
こまめに水分を摂取することが大切です。
2、肺炎、尿路感染症といった感染症
普段から、免疫アップを意識して、生活することが大切です。
漢方も、感染症の予防に役立ちます。
3、モルヒネ、睡眠導入剤といった薬剤を内服している
モルヒネに関しては、痛みを取るためなので、やむを得ません。
しかし、過剰なモルヒネの量にならないように、適正なモルヒネの量になるように、医療従事者は、心掛けないといけません。
睡眠導入剤に関しては、せん妄になりにくいタイプの睡眠導入剤に、置き換えることが、重要です。
せん妄を引き起こしやすい睡眠導入剤は、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤です。具体的には、以下のような薬剤です。
- ハルシオン
- デパス
同時に、普段から内服する薬を、最小限にするように努めないといけません。
以下の薬剤も不穏の原因となります。
1、アレルギーの薬(第一世代抗ヒスタミン薬〜ポララミン、レスタミン)
2、うつ病の薬(三環系抗うつ薬やパロキセチンなど)
3、抗コリン系のパーキンソン病の薬(アキネトン、アーテンなど)
4、胃薬(ガスター)
5、抗コリン系の過活動性膀胱の薬(ベシケア、バップフォーなど)
6、リリカ
7、抗認知症薬、抗精神病薬
不穏のときには、薬剤師に薬のチェックもしてもらうとよいです。
家族の方は、せん妄に、動揺しないようしましょう。
入院をして、急におかしくなった姿を見て、家族は動揺します。
急に認知症になったと思われる方もいます。しかし、そうではありません。せん妄になったのです。
そして、せん妄は、適切な対処で、大半のケースで、良くなります。
さて、せん妄が起きると、どうしたらよいか分からず、患者さんの様子を見守ることしかできないという、ご家族は多いです。
混乱した発言が見られるときは、患者さんの言動を受け入れ、それに合わせると良いです。
たとえば、病院にいるのに、家にいるつもりで話をすることがあります。
そのような時は、「ここは病院ですよ」と訂正すると、患者さんは反発してかえって興奮します。そういうときは、混乱しないよう、話をあわせてください。
せん妄になると、患者さんは、訴えることが、できなくなる
せん妄になると、自覚症状や苦痛を、医療従事者に伝えることが、できなくなります。
その結果、とても苦痛を強いることになります。
一見すると、ボーとしているだけの症状にしか見えないせん妄であっても、患者さんは、苦痛と戦っている時も珍しくありません。
だからこそ、せん妄の状態から離脱させるために、適切な治療をしないといけません。
ちなみに、「ボーとしているだけにしか見えないせん妄」を、うつ病と誤診されてしまうことも、あります。
そして、うつ病の薬を処方されてしまうことがあります。
そのような場合は、さらにせん妄の症状が悪化してしまいます。
うつ病の場合は、反応は遅くても、つじつまが合わないような言動は取りません。この点が、うつ病とせん妄の区別をするポイントです。
せん妄の治療方針とは?
せん妄の治療方針で、最も大切なことは、せん妄の原因を改善できるかどうかです。
改善できる場合は原因を取り除き、せん妄からの回復を目指します。
原因の改善が難しいと考えられた場合は、患者さんの意識が多少混濁していても、症状が緩和され、夜眠れるようになることを目指します。
最後に、入院中のせん妄を改善するために、あなたにできることをお伝えします。
1、場所、時間の感覚を取り戻す工夫をする。
時計やカレンダーを見えるところに置きましょう
馴染みのあるもの、家族の写真を置きましょう
2、会話の工夫
つじつまの合わない話でも否定しないようにする。
3、環境を整える工夫
- 昼間は日光を取り入れて室内を明るくし、適度な運動や刺激(テレビ、会話など)を取り入れる。
- 夜は静かにして、40~60ワットのスポット照明をつける。
- 1日に1回は、外に少しでて、外の空気を吸うようにする。
- 意識が混乱している時は、できるだけ付き添う。
4、口腔ケアの工夫
口の中を毎日確認して、口腔ケアをする。
せん妄を防ぐことが、がんの治療においても、重要なことであると言えるでしょう。