卵巣がんのステージ別と、転移した部位別の治療法を、医師が解説!ステージ4や再発でも克服を目指す!
こんにちは。加藤隆佑です。がん治療の専門医として、小樽協会病院という総合病院で勤務しています。
あなたは、卵巣がんを克服するために、知っておくべきことがあります。
たとえば、抗がん剤の副作用で苦しんでいるならば、もっと楽に治療を受けられるようにしていきましょう。
私の16年間のがん治療の経験を踏まえて、あなたの悩みの解決の手助けになることを、書いていきます。
卵巣がんの初期症状(自覚症状)と、その取り除き方
卵巣は、子宮の両脇に1つずつある臓器です。
はじめは、ほとんど症状がありません。下腹部にしこりが触れる、おなかが張るといった症状で、受診されることが多いです。
しかし、このような症状があるときには、卵巣がんが進行していることも少なくありません。
特に、急なお腹の張りや痛みなどがある場合には、早めに受診しましょう。
ちなみに、卵巣がんについては、定められている検診は、ありません。また、BRCA1、BRCA2という遺伝子が関係する、家族性の卵巣がんもあります。しかし、全体の1割にも、満たないです。
卵巣がんのステージの決め方
超音波検査、CT、MRIなどを行います。しかし、これだけの検査では、良性の腫瘍なのか、悪性(がん)なのかが、はっきり区別できないケースも多いです。
以上の検査をして、どのような病気の広がりかを予想をつけた上で、手術を行います。
手術で採取した組織を顕微鏡で見て、良性・境界悪性・悪性の判定および卵巣がんの顔つき(組織型)を決定します。
ステージは、手術の所見、CT、MRI所見より、決定します。ステージの詳細は以下の通りです。
ステージ1Aとステージ1B
がんが、卵巣だけにとどまっている。
(1Aの場合は、卵巣がんが、片方にしかない状態。2Aの場合は、両方の卵巣に、がんが、ある)
ステージ1C
卵巣の表面をおおう膜が破れたり、卵巣の表面をおおう膜にがんが浸潤して、腹膜への卵巣がんの転移の可能性がある状態。もしくは、腹水に、がん細胞を認めるもの。
ステージ2
がんが、卵巣周囲の臓器(卵管、子宮、直腸、膀胱)などに、広がっている。
ステージ3
骨盤の内部だけでなく、骨盤の外側に腹膜播種している。もしくは、後腹膜リンパ節に広がっている。
ちなみに、腹膜播種とは、お腹の中の、腹膜という部位に、種がまかれるようにバラバラと、がんが、広がることです。
ステージ4
ステージ4A:胸水中にがん細胞を認める。
ステージ4B:がんが腹腔を超えて転移している(そけいリンパ節も含める)。もしくは、肝臓や肺といった遠くの臓器に転移している。
また、卵巣がんの組織型には、4つのタイプがあります。
最も多いのは、漿液性卵巣がんであり、抗がん剤が非常に効きやすいです。
類内膜腺がんは、子宮体がんを合併することがあります。また、漿液性卵巣がんと同様に、抗がん剤が効きやすいです。
粘液性卵巣がんと、明細胞腺がんは、漿液性卵巣がんに比べると、抗がん剤が効きにくいです。
抗がん剤が効きにくくても、がんを抑えることはできます。
つまり、抗がん剤の治療効果をより良くすることは、できるのです。
そのための方法は、こちらで詳しくお話しています。
ステージに応じた治療法と生存率
ステージ1
手術で、卵巣がんを取り除きます。
その後、切除した卵巣がんを顕微鏡で観察して、ステージを確定します。
ⅠA・ⅠB、かつgrade 1と診断された方は、いったん積極的な治療は終了となります。つまり、再発がないかを、定期的に検査で確認していくだけになります。
「ステージⅠA・ⅠBで、grade 2以上」の方、「ステージ1C」や、「卵巣がんが、明細胞がんというタイプ」の場合には、副作用に耐えられる体力があれば、抗がん剤治療を短期間受けることにより、再発率を下げていきます。
がんを手術で全部切除できたように見えても、すでにがん細胞が別の臓器に転移している可能性があるからです。
術後の抗がん剤治療は、負担のない範囲で受けることは大切です。
がんの再発を抑える方法は抗がん剤以外にも、あります。
いろんなことを取り入れて、がんの再発を抑えていきましょう。
ステージ2とステージ3で、手術前の検査で、卵巣がんをすべて取り除けると判断された場合
手術で、がんを切除します。
その後は、抗がん剤治療を短期間受けることにより、再発率をさらに下げます。
一方で、実際に手術を試みたら、がんが広がりすぎていて、がんを取り除けないこともあります。そのような場合は、手術でがんを、取り除けるだけ切除します。
卵巣がんが、体内に残る量を、極力少なくします。
残っているがんの大きさが、小さいほど、予後が良くなるからです。
その上で、抗がん剤治療を追加して、がんを叩くという治療になります。
ステージ2とステージ3で、手術前の検査で、卵巣がんをすべて取り除けられないかもしれないと、判断された場合
2つの治療方針が考えられます。
1、手術で、可能な限り、がんを切除して、その後、抗がん剤治療で、がんを叩く。
2、抗がん剤治療でがんを縮小させてから、手術をする。
ステージ4
肝臓、肺、腹膜、複数のリンパ節に、がん細胞がある状態のことです。この状態は、がん細胞が、体に広く散らばっていると予想されます。
抗がん剤治療でがんを縮小させて、手術ができる状態になれば、手術をします。
がんをとれるだけ手術で切除してから、抗がん剤治療になることもあります。
ステージ4であっても、抗がん剤と手術で、完全寛解にもっていける方も、中にはいます。
しかし、残念ながら、そのようにならないこともあります。
「寛解になるか、否か」が、予後に影響を与える分岐点になります。
ちなみに、寛解とは、がんを画像状で指摘できない状態のことです。
寛解をめざして、取り入れられることは、すべて取り入れて、治療を受けていきましょう。
標準的な治療以外にも、寛解の状態にもっていくのに、役立つ治療法は、あります。
さて、上記のデータは、2006年から2008年の間に、卵巣がんの診断や治療を受けた患者様に基づいたデータです。
つまり、10年前の治療に基づくものですので、現在の発達した治療であれば、よりよい治療成績になっています。
また、データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての患者様に当てはまるわけではありません。
卵巣がんの抗がん剤の効果
卵巣がんには、抗がん剤治療が非常に有効です。いろんながんがありますが、卵巣がんは、抗がん剤が、非常に効きやすいがんに、分類されます。
さて、手術後の卵巣がんの再発率を下げたり、手術で取りきれなかった卵巣がん、並びに、ステージ4の卵巣がんの治療で、用いられる抗がん剤は、以下のものです。
「カルボプラチン+パクリタキセル(タキソール)」
もしくは、
「カルボプラチン+ドセタキセル(タキソテール、ワンタキソテール)」
カルボプラチンというお薬が、とても重要な薬になります。
卵巣がんにとても、有効なのです。
最近は、上の抗がん剤に加えて、アバスチン(ベバシズマブ)という分子標的薬を併用することも、増えてきています。よりよい治療効果になるからです。
かなりの方が、手術と上記の抗がん剤治療を併用することにより、がんを画像状では、指摘できない状態(寛解状態)にもっていくことができます。
寛解状態にもってこれると、かなり良好な予後を期待できます。
寛解状態を少しでも長くするために、アバスチンは、重要や役目を果たします。
もし、寛解にもってこれない場合は、以下の抗がん剤を用いて、治療をしていくことになります。
ドセタキセル(別称はタキソテール、ワンタキソテール)
ゲムシタビン(ジェムザール)
リポソーム化ドキソルビシン(ドキシル)
パクリタキセル(タキソール)
トポテカン(ノギテカン、ハイカムチン)
寛解の状態に持っていけないと、厳しい状況になりつつあると考えないといけません。
そして、長期にわたる治療になることが予想されます。そこで、抗がん剤による副作用で、体力を失わないようにしないといけません。
ちなみに、そのような厳しい状況を打破するための治療法も、存在します。
標準治療としては普及はしていませんが、試みる価値の高い非常に有効な治療法もあるのです。
寛解になる確率を高めていくために、知っておくべきは、こちらで公開しています。
卵巣がんの抗がん剤の副作用
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えます。
特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、あるいは血球をつくる骨髄は、影響を受けやすいです。その結果、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球の数が少なくなることがあります。
全身のだるさ、吐き気、手足のはれ、しびれ、肝機能障害、腎機能障害が出ることもあります。
こうした副作用が、どの程度出るかに関しては、個人差があります。
副作用が著しい場合には、抗がん剤の量を減らしたり、抗がん剤治療の中断を検討することもあります。
あなたが、辛いと思っている副作用を、主治医に、しっかり伝えましょう。あなたが、伝えないと主治医に分かってもらえない副作用があるのです。
副作用対策をしてもらいましょう。
最近は、副作用を、かなり取り除けるようになりました。
例えば、以前は、吐き気で悩まれる方が、非常に多かったです。しかし、最近は、そのようなことは、減りました。非常によく効く吐き気止めが、使えるようになったからです。
以前とは、比べものにならないくらいに、吐き気に悩まされずに、治療を受けられるようになってきています。
そのような事実があるにもかかわらず、吐き気に悩まされながら治療を受けられている方がいらっしゃるのも、事実です。
その原因として、以下の理由があげられます。
副作用で苦しんでいることを、主治医が把握できていない。
主治医が副作用対策を熟知していない。
本来であれば悩まなくてもよい症状に、悩まされることがあるのです。
もう一つ忘れてはいけない理由は、過剰な量の抗がん剤が投与されていることがあります。
もう少し具体的にお伝えします。
一般的な抗がん剤は、体重と身長から、投与量を計算します。
体重が減れば、抗がん剤も減量するのですが、従来の体重の量のままで、抗がん剤が投与されていることがあるのです。
それは、過剰な量の抗がん剤になり、強い副作用がでることになります。
体重の1kg程度の増減は、気にしなくてもよいですが、それ以上の体重の増減のときは、主治医に伝えるべきです。
代替療法的な手法を取り入れることにより、副作用を緩和させることも、できます。
卵巣がんでよく用いられる抗がん剤の1つであるパクリタキセルや、ドセタキセルでは、特に注意しないといけない副作用があります。それは、しびれです。専門用語で、末梢神経障害と呼ばれます。
後遺症として、しびれが残り、自分で歩く事が困難になったり、ボタンを自分でつけれなくなることもあります。
しびれに関しては、適切な対処が必要です。しびれの予防する方法もあるので、取り入れていきましょう。
しびれの予防法は、こちらで公開しています。
また、パクリタキセル、ドセタキセルの副作用による筋肉痛で、悩まれる方もいらっしゃります。
ノイトロピンというお薬で、症状を改善させることができるので、試みるべき価値のある方法でしょう。
卵巣がんが寛解した後に、再発した卵巣がんの治療
半年以上してからの再発の場合は、初回に用いた抗がん剤であるカルボプラチンを併用する化学療法になります。
例えば、「カルボプラチン+ドセタキセル(タキソテール、ワンタキソテール)」「カルボプラチン+ドキシル」といった治療です。ベバシズマブ(アバスチン)を併用することもあります。
それなりの治療効果が、望めます。
再び寛解状態にもってこれるケースも、それなりの頻度であります。
再発後の寛解を維持するために、リムパーザというお薬が、用いることができるようになりました。
さて、半年以内に再発した場合は、カルボプラチンといった白金系に分類される薬を、用いない治療になります。以下のどれかが用いられます。
ドセタキセル(別称はタキソテール、ワンタキソテール)
エトポシド(ラステット、ペプシド)内服
ゲムシタビン(ジェムザール)
リポソーム化ドキソルビシン(ドキシル)
パクリタキセル(タキソール)
トポテカン(ノギテカン、ハイカムチン)
さらにベバシズマブ(アバスチン)を併用することもあります。
転移した部位に合わせた治療法
肝転移
肝臓に転移していると、ステージ4の段階になります。したがって、ステージ4の治療に基づいた治療を受けることになります。つまり、抗がん剤治療です。
肝転移が少数の数であり、肝臓以外にがんが存在せず、さらに、肝転移の状態が長期間にわたって落ち着いているときは、以下の治療法が検討されることもあります。
血管内治療
ラジオ波焼却術(RFA)
放射線治療
手術
リンパ節転移
卵巣の周りの転移しているリンパ節ならば、手術で取り除くことになります。
この場合は、ステージ2かステージ3に該当します。
一方で、広い範囲に転移している場合のリンパ節転移は、手術で取り除くことは、不可能であり、ステージ4の診断となります。その場合は、ステージ4の治療に準じた治療、つまり抗がん剤治療が中心となります。
腹膜播種
お腹の中に、腹膜という部位があります。そこに、種がまかれるように体の中にバラバラと、がんが広がることです。その場合も、「抗がん剤+手術」で、治療をしていくことになります。
ステージ2からステージ4に該当します。
「抗がん剤+手術」で制御がうまくいかない腹膜播種を制御するための、特殊な治療法があります。
お腹の中に、直接抗がん剤を投与するという方法です。腹腔内化学療法と言われます。
腹腔内のがん細胞を制御するのに、有効な治療法です。
ただし、腹腔内化学療法は、広く普及がしていないという問題点は残ります。
卵巣がんで腹水多量のときの治療法
さて、腹膜播種がひどい状況になると、腹水がでます。腹水の量が非常に多いと、食事量が減り、全身の状態が悪くなることがあります。
そのような状況での、抗がん剤治療は、副作用のリスクが高くなるので、慎重に行わないといけません。
そのような状況でも、治療によって、がんを制御できれば、腹水を減らすことができます。手術ができるくらいに、がんを縮小するケースもあります。
お腹の張りが強いときは、小さな針をお腹にさして、腹水を抜くことがあります。
しかし、腹水を抜くだけですと、腹水の中にある体の栄養成分も、抜けてしまいます。
そこで、腹水を「ろ過+濃縮」して、体内に腹水の栄養分を戻す、腹水ろ過濃縮再静注法(CART)を行うことがあります。
卵巣がんステージ4や再発の卵巣がんは治る?それとも、末期で余命を数える段階?そして末期症状とは?
また、「ステージ4や再発=末期がん」と、思われがちですが、ステージ4でも、完治される方は、います。
私が考える末期とは、自分の力で歩くことも食事をすることもできないほど、弱りきっている段階と考えます。そのような段階にならない限りは、受けるべき治療はあります。
また、ステージ4(もしくは再発)にも、いろんな状況が想定されます。
肝臓に転移が1つだけある方
肺や肝臓に無数の転移のある方
すべての抗がん剤治療を試み、治緩和ケアを提案される方
上記の通り、ステージ4(もしくは再発)といっても、いろんな段階があるのです。
ステージ4や、再発であっても、寛解にもってこられるケースは、珍しくありません。
さて、ここでは、効果の期待できる抗がん剤治療が提案することができない段階の対応について、詳しくお伝えします。
このような段階は、病気に伴う心と体の痛みを和らげる治療、つまり緩和医療が中心となります。
痛みがあるときは、痛み止めの薬の量を調節する
精神的に落ち込んでいるときは、カウンセリングを受けたり、抗うつ薬の量を調節する
そのような治療を中心に行います。
もちろん、がんと診断された時期から、上記のことは、同時並行でおこなっています。「効果の期待できる抗がん剤治療が提案できない段階」は、そのことを、より強化していくということです。
この段階における治療は、決まったやり方があるようで、ありません。かなり、医師の力量が問われるところなのです。
そして、緩和医療をうけていただくことも、より長く生きていくことにつながることは、証明されています。
抗がん剤、手術、放射線治療だけが、より長く生きていくための治療ではないことを忘れてはいけません。
ここまでについて、いかがでしょうか?
卵巣がんの治療の概要を分かっていただけたでしょうか?
あなたが、ちょっとした工夫を取り入れるだけで、卵巣がんによる症状が楽になることもあります。
他のドクターから、主治医から提案されなかったような治療法を提案してもらったおかげで、完治された事例もあります。標準的な治療とはされていない中にも、それなりの確率で、有効な治療法もあるのです。
そして、卵巣がんを、さらに小さくしていけます。
そのために、知ってほしいことは、こちらに公開しています。