千金食治に学ぶ ― 五臓と四季に寄り添う食養生

食事

こんにちは。加藤隆佑です。

「薬よりもまず食を大切にしなさい」

そう説いたのが、中国・唐代の名医 孫思邈(そんしばく) です。

彼の著書『千金要方』の中にある「千金食治」は、食によって病を防ぎ、体を整える智慧 をまとめたものです。

現代は食材も品種改良され、生活習慣も変わりました。社会環境も大きく異なります。昔は肉や油脂の摂取が少なく、飢餓や栄養不足が大きな問題でした。現代日本ではむしろ過栄養や生活習慣病が中心です。

そのような背景があったとしても、千金食治の「考え方」は今も十分に役立ちます。

今回は、五臓と四季の関係 を踏まえて、現代に活かせる食養生をわかりやすくご紹介します。

五臓と四季はなぜ関連するのか?

中医学では、自然界と人体はひとつの流れでつながっていると考えます。これを「天人相応(てんじんそうおう)」といいます。

・春 → 肝 → 木 (春は肝が弱りやすい)
・夏 → 心 → 火 (暑さで循環や精神に負担がかかり、動悸や不眠・イライラが出やすい)
・長夏(梅雨) → 脾 → 土 (梅雨は脾(消化器)が湿で弱りやすい)
・秋 → 肺 → 金  (秋は肺が乾きやすい)
・冬 → 腎 → 水 (冬は腎が冷えで弱りやすい)

この対応は「五行説」に基づいており、季節の変化に応じて臓器も影響を受ける と整理されました。

つまり、「春は肝が弱りやすい」「秋は肺が乾きやすい」など、季節ごとに体調の変化が出やすい臓器があるという考え方です。

季節ごとの食養生(千金食治より)

春(肝を養う)

特徴:気血の流れが乱れやすく、自律神経が不安定に

おすすめの味:酸味

食材例:梅、柑橘、山菜、緑の葉物野菜

クエン酸で疲労回復。肝機能も助けます。

夏(心を養う)

特徴:陽気が盛んで、血流や精神が活発に

おすすめの味:苦味

食材例:ゴーヤ、緑茶、蓮の葉

余分な熱を冷まし、心臓・血管を守ります。

長夏(脾を養う)

特徴:湿気で消化器が弱りやすい

おすすめの味:自然の甘味
食材例:米、小麦、雑穀、豆、芋類

脾(消化器)を助け、体のエネルギー源をしっかり補います。

秋(肺を養う)

特徴:乾燥で呼吸器に影響が出やすい

おすすめの味:辛味+潤い

食材例:大根、梨、蜂蜜、生姜、ネギ

咳を防ぎ、喉や肺を潤します。

冬(腎を養う)

特徴:寒さで体力が奪われ、腎精が消耗しやすい

おすすめの味:鹹味(塩味)

食材例:海藻、黒豆、胡桃、黒胡麻、栗

腎を補い、冷えや老化を防ぐ養生になります。

千金食治の実践ポイント(現代向けにアレンジ)

粥を取り入れる ― 消化にやさしく、体力低下時におすすめ

旬の食材を選ぶ ― 四季と臓器のリズムに合う

穀物と豆を基本に ― 腸内環境を整え、エネルギーの土台に

腹八分を心がける ― 「多食は百病の源」

ナッツや種子を活用

胡桃 → 腎を補い、便秘にもよい
松の実 → 肺を潤す
胡麻 → 肝腎を養い、髪や肌に良い
杏仁 → 咳を鎮める(ただし食べすぎ注意)
栗 → 胃腸と骨を丈夫にする

水は常温・温かめに ― 冷たい水は脾胃を弱らせる

よく噛む ― 消化吸収を助け、過食を防ぐ

発酵食品を取り入れる ― 腸を整え、気血を巡らせる

新鮮な食材を選ぶ 、なるべく自然な形の食材を― 腐敗・加工食品は避ける

食を楽しむ心を持つ ― 心安らかに食べることも養生

それ以外には、

即効を求めず継続する、食と休養を一体で考える、病態に応じた食材の薬性を使い分ける(虚弱には滋養のある食材、熱・炎症には冷やす食材)、食後にすぐ眠らず、激しく動かない(軽い散歩レベルにする)、禁忌を守る(糖質の取りすぎ、塩分控えめなど)、朝は食を軽くし夜は食べ過ぎない

ご参考になれば幸いです。